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第33回受賞作及び受賞者名

『華北駐屯日本軍―義和団から盧溝橋への道』(岩波書店 2015年)

桜井 良樹(さくらい・りょうじゅ)(麗澤大学外国語学部教授)

 このたびは、思いもしなかった大平正芳記念賞をいただき、たいへんありがたく、また感謝申し上げます。50歳未満という選考基準を知り、何かの間違いかと何度も確かめました。  本書では、義和団事件をきっかけに1901年に設けられた清国駐屯軍(支那駐屯軍)の、設置から盧溝橋事件後の廃止に至るまでの歴史を初めて本格的に扱いました。それを中国国内情勢の変化(辛亥革命、中国内戦)や国際情勢の変化(第一次世界大戦、満洲事変)、日本の変化との関係で明らかにしました。また各国の駐屯軍の状況と変化についても、可能な限り明らかにしました。  本書の持つユニークな点は、駐屯軍が単なる邦人保護・居留地防衛を目的とするものではなく、現地の秩序維持を担う国際軍的性格と機能を持っていたことについて注目し、その変化を織り込みながら著述した点にあると考えます。日本軍は、はじめは国際協調につとめ突出した行動をとらなかったのですが、1930年代から性格をしだいに変化させていく様相が明らかになりました。これは同時に中国という場における列強諸国による外交団による協調体制(北京議定書システム)が、ワシントン体制期を経て機能しなくなり、やがて崩壊していったことを、駐屯軍という側面から描いたことを意味するものです。  本書は純粋な歴史研究ですが、そこに現代的な意義があるとすれば、それは世界各地での紛争や社会の混乱に際して、人道的支援や平和維持の名のもとに軍隊派遣がなされている現状を考える時、戦うことを目的にしなくても生じてくる様々な作用や変化を、この過去の事例からすくい取ることができるということだと思います。  最後に、これまで政治史の細かい実証研究を中心にしてきた私にとって、この本の構図は多少冒険的なものでした。このような発表の場所を提供してくださった岩波書店、そして本賞を与えてくださった選定委員・大平財団の皆様そして私を育ててくださった諸先輩方に厚く御礼申し上げます。

略歴
1981年上智大学文学部史学科卒業、1988年大学院を修了。1996年博士(史学)授与。1991年より麗澤大学講師、助教授を経て、現職教授、國學院大学非常勤講師。野田市史編さん 委員。東アジア近代史学会常任理事、首都圏形成史研究会常任委員。他の業績として『大正政治史の出発』(山川出版社1997年)、『帝都東京の近代政治史』日本経済評論社(2003年)、『辛亥革命と日本政治の変動』(岩波書店2009年)、『加藤高明』(ミネルヴァ書房2013年)、『国際化時代「大正日本」』(吉川弘文館2017年)がある。

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