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第34回 受賞作及び受賞者名

『華人のインドネシア現代史―はるかな国民統合への道』(犀社 2016年)

貞好 康志(さだよし・やすし)(神戸大学大学院国際文化研究科教授)

 このたびは大平正芳記念賞を賜り大変光栄です。一昨年受賞された岡本正明さんも触れておられた通り、京都大学での同門の師である亡き土屋健治先生が本賞の第一回受賞者のお一人でした。かつて恩師が受賞したこの賞を33年後まさか自分が頂けることになるとは、その巡り合わせに感慨を覚えると同時に、賞の重さに身の引き締まる思いです。
 今回の受賞作である拙著『華人のインドネシア現代史』を貫く主題は、サブ・タイトル「はるかな国民統合への道」にも表れている通り、歴史も文化も多様なインドネシアの人々、特に外国にルーツをもつ住民の代表格である中国系住民(華人)を、同国の歴代政権や社会の指導者たちが一つの国家・社会にどうまとめあげようとしてきたのか、華人たち自身の言動はどうだったのか、国民統合の過程をそれに伴う困難もろとも、前史をなすオランダ植民地期以来約百年にわたって辿ってみようということでした。
 国民統合という主題が、東南アジア研究の世界ではやや時代遅れの、20世紀のテーマだとみなされていることは承知していました。特に華人研究においては、多元的アイデンティティ論やディアスポラ論、トランス・ナショナリズム論などの方が今では流行りの議論です。私は現代世界の動向にかんがみて、それらの意義を否定するものではありませんが、本書においてはそれらの論を華人に託して展開することは行ないませんでした。それらの議論の前提として、また華人社会にも東南アジア諸国にとっても今なお基盤となる最重要の課題として、国民統合の要請が底流にあることを序論で示し、あとはその主題に沿って百年の間何がどのように展開してきたのか、堅実な実証に徹することを心がけました。
 全体を貫く結論として、華人のナショナル・アイデンティティのみならず、華人問題への取り組みを契機に、インドネシアの国民統合思想の基本原理自体が「血統主義」から「属地主義」(生まれ育った場所に属するという考え方)に移行したことを論証するなど、大小の新発見も多く盛り込んだと多少自負するものです。が反面、本書は一見、華々しさとは程遠い、われながら愚直なまでに地味な学術書となりました。そのような拙著を高く評価してくださった貴財団の皆さま、とりわけ選定委員の皆さまに深く感謝すると共に、外見の華麗さより中身の確かさを重視する本賞を受賞できたことを改めて誇りに思います。
 本日は誠にありがとうございました。栄えある大平正芳記念賞の名に恥じぬよう、今後いっそうの高みを目指して精進することを誓い、受賞の言葉とさせて頂きます。

略歴
住友林業株式会社勤務(1986~89年)
インドネシア国立ディポヌゴロ大学留学(1990~91年)
京都大学大学院人間・環境学研究科修士課程修了(1995年)
同大学院博士課程単位取得退学(1998年)
神戸大学国際文化学部専任講師(1999~2001年)
同助教授(2001~07年)

神戸大学大学院国際文化学研究科准教授(2007~12年)

同教授(2012年~現在に至る)
神戸大学学術博士(2011年)

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