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第34回 受賞作及び受賞者名

『絨毯が結ぶ世界―京都祇園祭インド絨毯への道』(名古屋大学出版会 2016年)

鎌田 由美子(かまだ・ゆみこ)(慶應義塾大学経済学部准教授)

 このたびは大平正芳記念賞を賜り、大変光栄に存じます。私は、イスラーム美術のなかでも、おもに写本研究と絨毯研究を行ってきました。日本では、絨毯研究の存在や意義がほとんど認知されていませんが、そうしたなかで拙著『絨毯が結ぶ世界―京都祇園祭インド絨毯への道』に意義を認めてくださり、大変励まされる思いです。運営・選定委員の諸先生方、財団関係者の皆様、名古屋大学出版会の皆様、これまでお世話になった先生方ならびに関係者の皆様に、心より御礼申し上げます。
  拙著では、これまであまり研究されてこなかった、17-18世紀に南インド(デカン)で貿易品として織られた絨毯に焦点を当て、その特徴を明確にしたうえで、それらがオランダ東インド会社によって、江戸時代の日本を含む世界各地に運ばれるなかで、その機能や重要性を変えながら各地で独自に使用されていく様子を明らかにしました。研究の過程で、京都祇園祭に伝わるデカン産絨毯と関連するものが、ヨーロッパ各地や、アメリカ、インドに想像以上に多く残るだけでなく、日本にも少なからぬ枚数の絨毯が運び込まれ、使用されてきたことが分かりました。
  日本では、絨毯研究の著作が僅かであり、あまり認知されていないことに鑑み、拙著では、絨毯研究がどのようなものなのかを紹介することから始め、14世紀以降にヨーロッパの人びとがイスラーム圏で織られた絨毯に魅了されていった様子や、16世紀以降の国際貿易によって絨毯が世界各地に運ばれていく様子についても詳述しました。188点のカラー図版と167点のモノクロ挿図によって、人びとの生活に根ざした歴史が見えてくるのではないかと思います。
  今後も、イスラーム美術の研究者として、新知見を通じて学界に貢献すると同時に、その成果を分かりやすく著作にまとめることで、多くの方にイスラーム圏の文化や歴史を身近に感じてもらうことに自分を役立てていきたいと思います。

略歴
1979年 福岡生まれ
2002年 慶應義塾大学文学部卒業
2004年 東京大学大学院 人文社会系研究科 美術史学専攻 修了
2004年 ニューヨーク大学美術研究所 博士課程 留学
2008年―2010年
メトロポリタン美術館イスラーム美術部門ホイットニー研究員
2011年 ニューヨーク大学美術研究所より博士号取得(イスラーム美術史)
2011年 早稲田大学高等研究所助教
2014年 慶應義塾大学 経済学部 専任講師
2017年 慶應義塾大学 経済学部 准教授

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