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第35回 受賞作及び受賞者名

『Authoritarian Capitalism Sovereign Wealth Funds and State―Owned Enterprises in East Asia and Beyond』
(Cambridge University Press 2018年)

Richard W. Carney(リチャード・カーネイ)
(Assistant Professor of Strategy, China Europe International Business School)

 大平正芳記念賞を受賞し大変光栄に存じます。財団の理 事の方々、選定委員会の先生方に厚く御礼申し上げます。  
  経済自由化改革のグローバルな波及に関する優れた論文 はたくさんありますが、それらとは異なり、本書『権威主義的 資本主義』では、政府系投資ファンドとか国営企業のような 国家がコントロールする経済主体が、世界経済の中で過去20 年間にわたり、その役割を増してきたことを論じています。 本書では、最初に国営事業体の発展とその規模について紹介 し、次に、何故彼らが時として外国企業に積極的な投資を行 うのか、それについて問うています。
 これまでの研究は重要な政治的現象を見逃してきました。 具体的には、「支配政党型権威主義体制DPAR」の台頭がそ れです。DPARは民主主義と権威主義の複合体制です。民 主主義と同じく、複数政党が競い合う選挙があるものの、政 権交代に発展することは滅多にありません。権威主義体制 だからです。DPARの顕著な例としてはマレーシアとシン ガポールの2国が挙げられます。DPARは冷戦が終結してか ら華々しく発展を遂げ、いまや全世界の体制の三分の一を占 めるまでになっています。にもかかわらず、これまでの研究 は、国家による企業部門への干渉という重要な事実を見落と してきました。
 DPARの指導者たちは、経済成長と同時に体制安定を維持 することを望んでいる、というのが私の主張です。じつは国 営企業SOEを上場することにより、経済成長と体制安定の バランスを上手く取ることが可能になります。SOEの上場 は否応なく彼らを市場競争に向き合わせ、それによって収益 性を高めると同時に、政府の無駄な財政支出を減らすことになります。それと同時に、国家が上場企業の株式を保有する ことで、現体制の権力と安定を保持するという政治目的を達 成します。というのも、DPARの体制は野党が選挙で戦う ことは認めるものの、野党に権力を移譲する意思はないの で、いったん体制を脅かすような政治的な脅威が増してくる と、DPARの指導者たちは企業への干渉を強めるからです。
 先に述べたように、DPARは全世界の体制の三分の一を 占めており、その意味するところは重要です「。単一政党型権 威主義体制SPAR」は中国などですが、全体制の約5%です。 ブルネイなどの「狭義の権威主義体制NAR」は全体制の約 10%です。
 本書の議論は沢山の事例研究に基づいています。ある章 では全世界でのパターンを紹介し、別の章では、3000社以上 の企業の「究極の所有主」に関するデータに基づきながら、ア ジアに焦点をあてて分析を行っています。
 大平正芳記念賞受賞は私にとって、変化を遂げるアジアの 権威主義体制とアジア域内諸国の相互作用について、今後の 研究を進めるうえで大変な励みになります。この研究を通 じて、権威主義体制についての理解が深まることにより、相 互の誤解が減り、協調が進み、さらには環太平洋連帯意識が 強化されることを望んでいます。

略歴
中国ヨーロッパ国際ビジネススクール(CEIBS)の戦略・起業学部の教員。教育と研究は、主に企業と政府の関係に焦点を当てている。最新の著書は、権威主義的資本主義:東アジアおよびそれ以上の国々における主権資産ファンドおよび国営企業である(Cambridge University Press、2018年)。本の中で開発されたフレームワークを利用して企業の社会的責任を調査した論文が、2018年国際ビジネスアカデミーの会議で新興経済研究の最優秀論文賞を受賞しました。Journal of Financial Economics、Business and Politics、およびReview of International Political Economyなどのジャーナルに多数の記事を掲載している。また、論争資本主義:金融システムの政治的起源(Routledge、2009)の著者、そしてアジア金融危機からの教訓の編集者(Routledge、2009)である。
CEIBSに入社する前は、オーストラリア国立大学の准教授およびシンガポールの南陽工科大学の助教授。また、イタリアのフィレンツェにあるEuropean University InstituteのJean Monnetフェローでもあった。カリフォルニア大学サンディエゴ校で博士号を取得。

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