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第36回受賞作及び受賞者名

『横浜華僑社会の形成と発展―幕末開港期から関東大震災復興期まで』
(山川出版社 2018年)
伊藤 泉美
(横浜ユーラシア文化館副館長・主任学芸員)
 この度、拙著『横浜華僑社会の形成と発展―幕末開港期から関東大震災復興期まで』が、第36回大平正芳記念賞を授与されました。誠に光栄に存じ、大平正芳記念財団の方々をは
じめ、関係各位に心より御礼申し上げます。
 この本のテーマ、横浜華僑社会の歴史は、私が長年研究に取り組んできたテーマです。1985年、大学院に進んで修論のテーマに悩んでいた折、横浜中華街を歩きながら、ふと、この街は一体いつごろからあるのだろう、という疑問がわいてきました。横浜生まれゆえ、中華街は身近な存在でしたが、不覚にもこの街の歴史に思いを寄せてきませんでした。調べ始めると、観光地としての横浜中華街は有名ですが、その歴史についてはほとんど明らかにされていませんでした。横浜の対外関係の歴史研究はペリー来航に始まる欧米関係の研究ばかりでした。しかし、日本は欧米5か国と条約を結び開国したのですが、やってきた外国人の大半は中国人でした。ならば、中国人の足跡を明らかにしなければ、横浜の近
現代の真の姿に近づけません。
 以来、前職横浜開港資料館で横浜華僑に関わる歴史資料を調査研究収集し、横浜中華街の歴史に関する企画展を開催しました。その間、多くの横浜華僑華人の皆さまの知己をえて、ともに調査研究を進め、その時々に文章にしてまいりました。今回の本はそれらを土台とした一冊です。
 さて、2020年の春、日本は、世界は、新型コロナウィルスの脅威の只中にあります。横浜中華街も大打撃を受けています。休業による経済的損益に加えて、「中国に帰れ」などいうヘイトの声も寄せられています。このことに私は強い憤りを感じ、また自分の至らなさを痛感しています。横浜中華街は開港以来160年の歳月をへた街であり、横浜華僑華人の多くは、横浜を故郷とする人びとなのです。今回の受賞を契機に、さらに横浜華僑華人の歴史研究とその普及に邁進し、多文化共存社会の実現に努力してまいる所存です。最後となりましたが、本書を世に送り出してくださった山川出版社、ご指導いただいた恩師、また日々私を支えてくれる家族にこの場を借りて感謝の意を表します。

略歴
横浜生まれ。1985年横浜市立大学文理学部卒。1988年お茶の水女子大学大学院人間文化研究科に進む。2017年に同大学院より博士号(人文科学)取得。1990年から現在まで、横浜開港資料館主任調査研究員および横浜ユーラシア文化館主任学芸員として、横浜の近代史、特に横浜華僑の歴史に関する調査研究と普及活動につとめ、『開国日本と横浜中華街』(西川武臣と共著、大修館書店、2002年)などを出版。近著は横浜ユーラシア文化館企画展図録『装いの横浜チャイナタウン―華僑女性の服飾史』(2019年)。

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