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第36回受賞作及び受賞者名

『対日協力者の政治構想―日中戦争とその前後』
(名古屋大学出版会 2019年)
関 智英
(津田塾大学学芸学部准教授))
 このたびは、名誉ある大平正芳記念賞を賜り、誠に光栄に存じます。財団関係者の皆様、選定委員の先生方、本書執筆にあたり数々のご支援を下さった方々に、心より御礼を申し
上げます。
 本書『対日協力者の政治構想』は、日中戦争時期に日本に協力した中国人の動向に注目したものです。ご承知のように大平正芳先生は1939年から40年にかけて張家口の興亜院蒙
疆連絡部に勤務されました。まさに本書が取り上げた対日協力者と実際に関わりを持っていらしたのです。本書がそのような経歴をお持ちの大平先生ゆかりの賞をいただくこ
とができたことに、得も言われぬ感慨を覚えます。
 日中戦争時期、対日協力者は蒋介石や毛沢東など日本と戦った側から「漢奸」すなわち「漢民族の叛逆者」として批判されてきました。この評価は戦後も続きました。これには
大陸の中華人民共和国および台湾の中華民国双方が、日中戦争勝利をもって、自らの正統性の根拠としてきたことが影響しています。このため研究の世界でも、対日協力者については「叛逆者」としての評価が先行し、それを乗り越える検討はほとんどなされてこなかったのです。
 しかし実際には日本占領地もまた日中戦争の無視できない構成要素でした。また重要なのは協力者が日本と協力した段階では、日中戦争の見通しが、日本が勝利する可能性も
含めて不透明だったということです。日本との協力を前提として中国の将来を構想した対日協力者の判断も、それなりに合理的なものであったと言えるのです。
 では日本と協力した中国人は、日中戦争をどのように考え、中国の将来を如何に構想していたのでしょうか。本書では日中戦争勃発前夜から中国に存在した様々な政権の変遷
を軸に、様々な対日協力者の主体性に着目し、戦後にまで繋がるその活動に迫りました。これにより、「叛逆者」という理解だけでは到底見えてこない協力者の主体性を跡付け、また日中戦争を東アジア史の中でより立体的に捉えることが出来たのです。
 今後も大平賞の受賞に恥じぬよう、日中関係の理解に資する研究に精進する所存です。

略歴
1977年福岡県に生まれる。2001年東京大学文学部卒業。2004年東京大学大学院人文社会
系研究科修士課程修了、2011年同大学院博士課程満期退学。2014年東京大学より博士(文学)授与。日本学術振興会特別研究員(PD)(2015―2018年)、公益財団法人東洋文庫奨励研究員(2018―2020年)を経て、2020年より津田塾大学学芸学部准教授。専門は、中国近現代史、日中関係史。

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