『衣装と生きる女性たち?―ミャオ族の物質文化と母娘関係』(京都大学学術出版会 2020年)
佐藤 若菜
(新潟国際情報大学国際学部准教授)
このたびは大平正芳記念賞を賜り、大変光栄に存じます。運営・選定委員会の先生方、財団関係者の皆様に心より御礼申し上げます。また、京都大学学術出版会の皆様、そしてこれまでお世話になった先生方ならびに関係者の皆様にも心より感謝申し上げます。
中国経済の急速な発展とともに、1990年代以降、少数民族であるミャオ族の生活は様変わりしました。若者は都市部へ出稼ぎにでるようになり、世代間におけるライフコースの違いは年々色濃くなる一方です。変化のただなかにあるミャオ族社会において、女性たちは民族衣装をどのように作り、扱っているのか。このような素朴な疑問を端緒に、研究をはじめました。拙著では、民族衣装を介したコミュニケーションのあり方について、着用場面だけでなく、製作・所有・保管・譲渡にもおよんで詳述しています。そのなかで、ミャオ族の女性たちは民族衣装をいまもなお手作りしつづけると同時に、その製作工程や製作時期を大きく変化させてきたことがわかりました。また、1990年以降廃れつつあったミャオ族の婚姻慣習が民族衣装の譲渡過程において維持されているという理解に至りました。結論では、こういった民族衣装を介した様々なやりとりは、農村と都市とに離れて暮らす母と娘のつながりを大きく支えていると指摘しています。
ミャオ族女性による民族衣装への深い理解、そして衣装と生きる人びとの多様な日常実践を生き生きと伝えるために、たくさんのカラー写真を掲載しました。また、複雑な衣装の細部をみていただくために、中扉のデザインにもこだわりました。本書を通して、中国農村部について、ミャオ族について、また衣装と生きる人びとについて関心をもっていただければ幸いです。このたびの受賞を励みとし、今後も調査・研究に真摯に取り組んでいきたいと思います。
略歴
1983年宮城県生まれ。2007年東北大学農学部卒業。2016年京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科博士課程修了・博士学位取得。博士(地域研究)。新潟国際情報大学専任講師を経て2019年より現職。専門は文化人類学、民族誌的手法による中国地域研究。主な業績として、「衣装がつなぐ母娘の『共感的』関係:中国貴州省のミャオ族における実家・婚家間の移動とその変容」『文化人類学』79巻3号(2014年)。