『外務省と日本外交の1930年代-東アジア新秩序構想の模索と挫折』(千倉書房、2022年)
湯川 勇人
(広島大学人間社会科学研究科法学・政治学プログラム准教授)
名誉ある大平正芳記念賞を賜り光栄に存じます。財団の関係者の皆様、選定委員の先生方に感謝を申し上げます。
拙著『外務省と日本外交の1930年代:東アジア新秩序構想の模索と挫折』は、2017年1月に神戸大学に提出した博士論文を基にしています。私が博士号を取得した頃、近い年齢の研究者たちは、続々と単著を刊行しておりました。その一方で、私は本書を世に送り出すまで、そこから5年もかかりました。その間、焦りがなかったと言えば嘘になります。しかし、多くの方々に博士論文の内容についてコメントを頂き、それらを参考に原稿を加筆修正していくなかで、面白いものになっているという手応えも確かにありました。この度、大平正芳記念賞を受賞できたことで、この5年間の歩みに間違いはなかったことが確認できたので、今後も、自信を持って研究活動を続けていくことができます。
本書が取り扱った1930年代の日本外交は、非常に複雑で一面的に理解することは不可能です。だからこそ、これまで多くの研究者が、あらゆる角度、視点から研究に取り組んできました。そうした優れた先行研究に拠りつつ(あるいは寄りかかりつつ)、本書は、1930年代の外交官たちが、どのような東アジア新秩序の構築を目指したのかを検討しました。その帰結は、地域の文化や多様性のもとで共生と繁栄を目指した大平正芳元首相の環太平洋構想とは似ても似つかないものです。ですが、1930年代の外交官がそうであったように、あるいは大平元首相がそうであったように、東アジアの大国として地域秩序の担い手であろうとした意識は、近代以降の日本外交に通底しています。この度の受賞によって、本書が1930年代の日本外交を知るための一冊のみならず、より広い視点で日本とアジア・太平洋諸国の関係性の歴史を知るための一冊として位置づけて頂けるようになれば、この上ない喜びです。
略歴
2013年3月、神戸大学大学院法学研究科博士前期課程修了。2013年9月から2014年6月までアイオワ大学客員研究員。2017年3月、神戸大学大学院法学研究科博士後期課程修了。2018年4月から2019年3月までひょうご震災記念21世紀研究機構研究戦略センター研究調査部主任研究員。2019年4月より広島大学人間社会科学研究科准教授。専門は日本外交史。