『冷戦終焉期の日米関係ー分化する総合安全保障』(吉川弘文館 2023年)
山口 航(帝京大学法学部専任講師)
この度は名誉ある大平正芳記念賞を賜りましたことを、厚く御礼申し上げます。これまで錚々たる先生方が本賞を受賞されており、その末席に加えていただいたことを、大変光栄に存じます。ご推薦くださった先生方や選考委員の先生方をはじめ、関係者の方々、本書の執筆にお力添えをいただいた方々に感謝申し上げます。
受賞対象となりました拙著『冷戦終焉期の日米関係――分化する総合安全保障』(吉川弘文館、2023年)は、総合安全保障という概念を軸に、冷戦終焉期の日米関係を論じたものです。そして、大平正芳首相こそ、首相就任以前から総合安全保障を提唱された人物であり、さらに首相としても総合安全保障研究グループを立ち上げ、議論を深められました。こうした点を考察した本書が、大平首相のお名前を冠した賞を賜わり、大変感慨深く感じております。
一般的に総合安全保障は、「狭義の安全保障」たる軍事安全保障のみならず、「広義の安全保障」たる経済安全保障や食糧安全保障などを合わせたものである、と理解されています。しかしながら、大平首相が提示したのは、そうした安全保障の「多様性」だけではありませんでした。自力で自国を守るという自助のレベルだけを考えるのではなく、同盟関係のレベルや国際環境のレベルから多層的に安全保障を捉える、という点においても総合的であるとしたのです。いわば安全保障の「多層性」です。拙著では、安全保障の「多層性」と「多様性」両方の観点を組み合わせて、冷戦終焉期の日米関係を論じました。今日でもしばしば用いられる、総合安全保障という概念の理解を深めることに貢献できたとすれば幸いに存じます。
この賞の名に恥じぬよう、精進して参りますので、今後ともご指導ご鞭撻のほど、どうぞよろしくお願い申し上げます。
略歴
1985年神戸市生まれ。同志社大学法学部3年次退学(飛び級で同大学院入学)。同大学院法学研究科博士後期課程単位取得満期退学。博士(政治学)。スタンフォード大学客員研究員、同志社大学アメリカ研究所助教などを経て、現職。専門は日米関係史、安全保障論。著書に『Q&Aで読む日本外交入門』(共編著、吉川弘文館、2024年)、『アメリカ大統領図書館?歴史的変遷と活用ガイド』(共著、大阪大学出版会、2024年)など。