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第23回 受賞作及び受賞者名

『貧困の民族誌―フィリピン・ダバオ市のサマの生活』(東京大学出版会)2006年)

青山 和佳(あおやま・わか)(日本大学生物資源科学部国際地域開発学科准教授)

 <他者との対話を真摯に試みていきたい>

 このたびは、拙著に対し、第23回大平正芳記念賞を賜り、大変光栄に存じます。アジア太平洋研究の一端を担う一研究者として、環太平洋連帯構想を掲げられた大平正芳総理の功績に深く敬意を表します。今回の受賞はまさに夢のようです。大平正芳記念賞運営委員会、選定委員会の先生方ならびに貴財団関係者の方々に心より御礼申し上げます。
  私がこの度の受賞作につながる研究をはじめた契機は、分析道具の組み立てに困ったことにあります。貧困の動態的データを収集しようと渡ったフィリピンのダバオ市で出会ったサマ(通称バジャウ)の人びとがマイノリティであったことから、「貧困」概念と「エスニック・グループ」概念をクロスできるような分析枠組みを作ろうと、経済学と人類学から分析道具を借りるつもりでした。しかし、用語集を見てすぐわかったのですが、経済学はエスニック・グループという概念に関心は薄く、また人類学は貧困という概念に必ずしも興味を持っていないようでした。それ以上に、これらのふたつの学問分野では、価値観や人間観の点でにわかに埋めがたいような違いがありました。悩んだ末に、経済的な生活水準を記録するとともに、エスニック・アイデンティティの生成過程とサマの暮しそのものを多面的に、また読者にとって身近に描き出すために民族誌という方法を採用しました。
  民族誌を書くということは現代ではそれ自体が政治的な行為として多くの批判があるところです。一方で、フィールドに立ちますと、自分自身に名前があるように、相手にも名前があり、毎日の暮らしがあり、ニーズや希望があり、大切にしている家族や友人がいる、という当たり前のことが身をもってわかることもまた真実です。そのような体験を大切にし、これからも、アジア太平洋地域の周縁に在って、私たちにその声が届きにくいような、他者との対話を真摯に試みていきたいと存じます。

 略歴
1968年、北海道生まれ。1992年慶應義塾大学商学部卒業。1995年同大学院商学研究科修士課程修了。2002年、東京大学大学院経済学研究科より博士号(経済学)取得。同研究科助手(2001-2004年)、和洋女子大学人文学部助教授(2004年-2007年)を経て、現在、日本大学生物資源科学部准教授。1997年~2001年、アテネオ・デ・マニラ大学フィリピン研究所客員研究員。専門は民族誌的手法によるフィリピン地域研究。

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