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第25回受賞作及び受賞者名

『文化大革命の記憶と忘却-回想録の出版にみる記憶の個人化と共同化』(新曜社 2008年)

福岡 愛子(ふくおか・あいこ)(東京大学大学院人文社会系研究科博士課程)

<『文化大革命』の語りの多様化と複雑化を指摘して>

「大平正芳記念賞」の受賞は、大変光栄なことではありますが、予想外のことで戸惑いさえ覚えました。それは拙著が、日本における従来の学術研究とは異なるアプローチによるものであり、著者自身のプロフィールも、これまでの受賞者の中では異例であったためです。にもかかわらず受賞作に選んでいただいたということに格別の意義を感じ、大平正芳記念財団の理事並びに選考委員の方々とスタッフの皆様のご理解に、感謝申し上げる次第です。また、中国の友人の皆様をはじめ、これまでご指導ご支援下さったすべての方々にも御礼申し上げます。
  長年さまざまな西洋文化に接した末に、私がようやくアジア地域へと関心を向けるようになったのは、中年に達してからのことでした。「60年代」や「文化大革命」(以後、「文革」)について、「記憶」という観点からの再考を試みる研究者として、遅いスタートをきったといえます。私自身の記憶の中では、リアルタイムで見聞きしていたはずのことより、近年表象され言説化された「文革」の方がはるかにリアリティが高く、「歴史決議」という国家言説が支配的な中国大陸で、文革はいかに「記憶」されているか、という問題意識から出発しました。
  拙著では、文革終結後中国大陸で出版された文革関連出版物を対象に、その量的質的分析を通して、国家による統制の相対的効果を検証し、文革の語りの多様化と複雑化を指摘しました。とりわけ、「知識青年」「普通の人々」「知識人」の回想録における「動機の語彙」に着目し、「個人記憶の共同化」に関わるアクターとファクターを明らかにしました。そして、韋君宜の『思痛録』出版を事例として、国家の制度に則りつつそれに挑戦する個人アクターの重要性を提起しました。
  今回の受賞は、過去の実績だけではなく今後の研究に向けられたものと受けとめ、これを機に「日中国交正常化前の日本における文革観」の研究完成に向けて、意欲を新たにしております。

略歴
1950年新潟県生まれ。1972年新潟大学人文学部卒業(英米文学専攻)。1974年から1年間、交換学生として米国留学。1975年帰国後翻訳・会議通訳に従事。2000年東京大学文学部社会学科学士入学、2003年卒業。2005年東京大学大学院人文社会系研究科専修課程入学。2007年同博士課程進級。論文に「日本にとっての『文革』体験」(『戦後日本スタディーズ2』紀伊国屋書店、2009年)、“The Cultural Revolution in Mainland China: How It Is Remembered and What Was Forgotten”(『次世代アジア論集』No.2早稲田大学アジア研究機構、2009年3月)。

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