『現代中国の中央・地方関係―広東省における地方分権と省指導者』(慶應義塾大学出版 2007年)
磯部 靖(いそべ・やすし)(慶應義塾大学法学部准教授)
<常に世界水準を意識した中国研究を志して>
この度、期せずして第25回「大平正芳記念賞」を賜り、身に余る光栄に存じます。とりわけ、日本と中国の関係の発展に多大なる功績を残された故大平正芳総理の名を冠した賞を授与していただけたことは、中国の研究に従事する者として、望外の慶びとするところであります。この度の受賞に際しご高配を賜った運営・選定委員の先生方に衷心より御礼を申し上げるとともに、四半世紀近くの長きにわたり、大変意義のある活動を続けてこられた大平正芳記念財団関係者の皆様に心より敬意を表する次第でございます。
拙著が上梓されるまでには大変多くの方々にお世話になりました。とりわけ、わたくしの研究者としての歩みを一貫して支えてきてくださった国分良成先生(慶應義塾大学法学部教授・法学部長)に対する感謝の気持ちは、月並みな言葉では言い尽くすことができません。この度の受賞は、こうした皆様のご支援の賜物でございます。今までお世話になって参りました皆様に、このような最高の形で恩返しができたことを大変嬉しく思います。
さて、拙著では、改革・開放期以降の広東省における地方分権をめぐる中央・地方関係を事例として、従来の研究の問題を明らかにするとともに、現代中国の中央・地方関係を分析するための新たな枠組の構築を試みました。すなわち、改革・開放期以降、地方分権が行われ「地方が強くなった」との前提のもとに行われてきた従来の研究の背景にある「制度論」、「中央・地方二元論」、「地方悪玉論」の問題を明らかにする一方で、新たな分析枠組として、「動員型地方分権」、「二元指導体制の温存」、「地方内の利益の多元性」、「融合―委任型モデル」を提起いたしました。
しかしながら、拙著を通じて明らかにできたことはほんのわずかに過ぎません。今後の研究課題として、考察対象とする時期、地域、レベルを広げていくとともに、分析枠組の更なる精緻化にも取り組んでいかなければなりません。また、わたくしが中国研究を始めた当時と比べ、中国自体が大きく変化してきているばかりでなく、中国研究を取り巻く環境も著しく変貌を遂げつつあります。とりわけ、グローバル化の波は中国研究にも着実に押し寄せていると痛感させられます。こうしたことから、今後とも研鑽を続け、常に世界水準を意識した研究を志していかなければならないと強く認識いたしております。
これから取り組まなければならない研究課題は果てしなく多いですが、この度、「大平正芳記念賞」を受賞できたことは、今後の研究の大きな励みとなりました。「大平正芳記念賞」受賞者の名に恥じぬよう、今まで以上に研究に精進して参る所存でございます。
略歴
1998年、慶應義塾大学大学院法学研究科政治学専攻後期博士課程単位取得退学。法学博士。
日本国際問題研究所アジア太平洋研究センター研究員、長崎外国語大学外国語学部准教授などを経て、現在、慶應義塾大学法学部准教授
専門は現代中国政治。
主な著作として、『中国の統治能力-政治・経済・外交の相互連関分析』(共著、慶應義塾大学出版会、2006年)、『中国政治と東アジア』(共著、慶應義塾大学出版会、2004年)、『中国文化大革命再論』(共著、慶應義塾大学出版会、2003年)、『グローバル化時代の中国』(共著、日本国際問題研究所、2002年)、『深層の中国社会-農村と地方の構造的変動』(共著、勁草書房、2000年)など。