『アジア地域主義外交の行方:1952-1966』(木鐸社 2008年)
保城 広至(ほしろ・ひろゆき)(日本学術振興会特別研究員 コーネル大学客員研究員)
<日本とアジア、歴史と理論が重なる領域>
今から思えば本書は、日本とアジア、歴史と理論という二つの接点を探る試みだったと言えるでしょう。
「日本とアジア」の接点というのは、近年さかんに論じられてきている「東アジア共同体」を歴史的に再考したかった、という問題意識です。日本を含むアジア共同体の行方は決して明確ではなく、その指針として、1950・60年代に盛り上がりそして挫折した「古い地域主義」を実証分析することは、研究テーマとして申し分ないと思ったからです。特に私が研究を始めた頃は、この時代における日本のアジア地域主義外交の研究業績はあまり蓄積がなく、それらを実証的・体系的に分析する必要性を強く感じていました。本書では、なぜ日本がアジアにおける多国間枠組みの創設を試み、そして失敗したのかという問題に答えています。今後日本が「アジア共同体」の一員として、アジアへうまく融解できるか否かは、本書で提示した挫折の理由を乗り越えられるかどうかにかかっているのではないでしょうか。
他方、「歴史と理論」の接点とは、従来別のものとして扱われてきた両者を、どのように一つに統合するかという、多分に方法論的な問題意識です。「外交史家にも認めてもらうような良質の実証分析と、戦後日本の外交政策を幅広く説明できるような理論的考察とを兼ね備えた研究を生み出したい。そのような密かな企みも、本研究の目指す目的の一つです」。4年前に幸運にも環太平洋学術研究助成費をいただいた際に私はそう書き、その課題を常に念頭に置いて本書を執筆しました。ただしこの問題意識は依然として私の中に、強く残っています。まだ残っているということはつまり、本書では十分に達成されなかったということでしょう。これは今後のために残された宿題として、さらに研究に励み、継続して取り組んで行くつもりでおります。
最後になりましたが、貴財団の関係者の皆さま、選考委員会の先生方々に深くお礼を申し上げます。名誉ある大平正芳記念賞を賜り、ようやく研究者としてのスタート地点に立てたとほっとしたのは確かですが、さらなる研鑽を積んで新たな研究に励まなければならないという緊張感もまた、維持していくつもりでおります。
略歴
1975年生まれ。1999年筑波大学第一学群社会学類卒業、2005年東京大学大学院総合文化研究科国際社会科学専攻博士課程中途退学(2007年博士号取得)。東京大学東洋文化研究所助教(2005-2008),オーストラリア国立大学客員研究員(2007-2008)を経て現職。
論文に「『対米協調』/『対米自主』外交論再考」『レヴァイアサン』第40号、2007年、”Co-Prosperity Sphere Again?; United States Foreign Policy and Japan’s ‘First’ Regionalism in the 1950s,” Pacific Affairs, Fall, 2009(Vol.82, No.3)など。