『最後の天朝―毛沢東・金日成時代の中国と北朝鮮』(岩波書店 2016年)
沈 志華(しん・しか)(華東師範大学歴史学部)
拙著『最後の「天朝」―毛沢東・金日成時代の中国と北朝鮮』(上、下巻、朱建栄訳、岩波書店、2016年9月)が公益財団法人大平正芳記念財団より「大平正芳記念賞特別賞」が授与されたとの一報に接し、とても光栄であり、非常に喜びを感じています。 私はかなり前より、大平正芳元総理が生前、中日関係の発展において行った多大な貢献に敬意を表しており、記念財団は「環太平洋連帯構想」ないしアジア地域の一体化に関する理念の普及を促進する一環としてこの記念賞事業を推進しておられることにも心より賛同します。 拙著はまず日本語版が出ることになりましたが、続いて韓国語版、香港で中国語版を出版する予定であります。(注:韓国語版と繁体字中国語版はそれぞれ半年以上遅れて2017年夏に出ました)本研究の日本語による世界初出版を注目していただき、高い評価をいただいたことに、自分としても深謝の意を表したいと存じます。 拙著は、長年発掘し続けた中国やロシア、アメリカなど各国の外交公文書に散在する関係資料を整理、考証したうえで、1920年代から中国の改革開放政策が始まる前に至るまでの中国と朝鮮との関係における紆余曲折に満ちた変化の過程を再検証し、再構成したものです。この作業を通じて、中朝関係の真実を、朝鮮は中国の「兄弟国家」であり、中国との間に鮮血で凝結された戦いの友情があるという「歴史的神話」から解放され、誤った認識や誤解、ステレオタイプの概念が打破されるのに、一定の役割を果たしたと評価されるとすれば幸いに思います。朝鮮の行動と変局はもはや中国が今、応対すべきもっとも重要な国際問題の一つになっており、このタイミングで出版した拙著は、中国が朝鮮問題に関する歴史的重荷を積み下ろし、半島の行方に関するより視野の広い、より多くの政策的選択肢を見つけるのに少し役立つことにも期待しています。 現在、私は上海の華東師範大学で周辺国家研究院を主宰しています。今回の受賞をきっかけに、日本の学界の友人と交流のパイプを広げ、中日両国間の相互理解と協力の促進に努めてまいりたい所存です。
略歴
華東師範大学歴史学部終身教授、同大学周辺国家研究院院長。中国人民大学、北京大学、香港中文大学、米国ウィルソンセンターなどで客員教授もしくは研究員を歴任した後、2005年より現職。専門は冷戦史、ソ連史、中朝関係史研究など。主要著作は『毛沢東、斯大林与朝鮮戦争』(第三版、広東人民出版社、2013)、『無奈的選択―冷戦与中蘇同盟的命運』(社会科学文献出版社、2013年)、『俄羅斯解密―案選編:中蘇関係(1945-1991年)』(12巻、東方出版中心、2015年)など。