『Diplomacy Meets Migration: US Relations with Cuba during the Cold War』
(Cambridge University Press 2018年)
上 英明 (かみ・ひであき)
(神奈川大学外国語学部准教授)
このたびは、名誉ある大平正芳記念賞を賜り、誠に光栄に 存じます。財団関係者の皆様、運営・選定委員の諸先生、本 書執筆にあたりご指導を下さった方々、本書の出版をご支援 くださった方々に、心より御礼を申し上げます。
本書は、半世紀にわたる米・キューバ関係の歴史を描き直 すことを目的としております。なぜ両国の外交関係は近年 にいたるまで途絶えていたのか。なぜ中国やヴェトナムと 国交正常化を実現し、経済関係を深めてきた米国が、国交回 復の条件として、このキューバにだけは体制転換を要求して きたのか。どうして冷戦期、そして冷戦後においても、キュー バだけがこのような特別扱いを受けてきたのか。
このような問いについて、従来においては「移民」の力を指摘することが常でありました。すなわち、キューバ革命に反 対する人々が合衆国に渡り、フロリダ州マイアミで一定の経 済的、政治的、文化的地位を築いたことが注目を集めたわけ です。そこで本書では通常の外交史とは異なるアプローチ をとりました。すなわち、二つの国家中枢にあたるワシント ンとハバナに加え、このマイアミを物語の中心に据えており ます。通常であれば二つの政府のやりとりで済む外交の話 をわざわざ移民社会をまじえた三角関係として捉え直すこ とには大変な労力を要します。しかし本書においては、こう でもしなければ米・キューバ関係の歩みを理解することは 到底できない、と主張しております。
本書では、このように「外交」と「移民」という二つのキー ワードを中心に、米・キューバ関係の歩みを米国史、中南米 史、そして国際関係史が重合する地点において描きました。 現在、中南米から合衆国へと押し寄せる圧倒的な人の移動に 伴い、移民を受け入れる合衆国、そして移民を送り出す中南 米諸国は大きな変貌を遂げつつあります。このたびの受賞 を励みに、そしてこれまで私を支えてくれた家族への感謝を 胸に、今後も南北アメリカを取り巻く多次元的な人間関係の 動態とそれに伴う社会の長期的変容を追い、積極的に研究を 進めて参りたいと存じます。
略歴
東京大学教養学部卒業後、2010年に同大学大学院総合文化研究科で修士(学術)を取得。2015年に米国オハイオ州立大大学院で博士(歴史)を取得後、神奈川大学外国語学部助教を経て、2018年より現職。専門は国際関係史、北米研究、中南米研究。主著にDiplomacy Meets Migration: US Relations with Cuba during the Cold War (New York: Cambridge University Press, 2018);「1898年戦争の記憶-米・キューバ国交正常化交渉におけるプエルトリコ独立問題を事例に」『国際政治』第187号(2017年):16-29頁など。