『「地球社会」時代の日米関係 ―「友好的競争」から「同盟」へ 1970-1980年』(有志舎、2022年)
長 史隆
(立教大学法学部兼任講師)
この度は、名誉ある大平正芳記念賞を賜り、光栄に存じます。財団関係者の皆様および審査の労を取っていただいた先生方に、深甚の謝意を申し上げます。
本書は、1970 年代における日米関係の展開を明らかにするものです。その時代には、西側陣営内での相互依存が深化するとともに、様々な国境横断的課題が噴出し、「地球」を 1 つの単位と捉える世界認識が次第に広がりました。そのような時代思潮を重視しながら、本書で私が試みたのは、安全保障問題を中心とする伝統的な2国間の政治・外交関係にとどまらず、グローバルな視座に立ち、難民、文化、動物の命といった社会・文化的な側面をも重視することで、新たな国際関係史のあり方を提示することでした。
また本書は、その時代の変化や課題に向き合った人々の群像劇でもあります。なかでも、私が最も重視し、本書を通じて主要な登場人物となったのが、大平正芳その人です。大平は、この時代に顕在化した様々な課題に最も誠実に向き合った人間の一人でした。例えば彼は、日本がインドシナ難民問題への対応に迫られた 1979 年 7 月に NHK の番組で次のように語っています。「こんなに地球が狭くなりましてね、相互依存がこんなに高まってきた時に、こんな態度でいいのかということを確かに、日本も考えなければいかんと思うのですが〔中略〕。諸国民が日本に定住されて、しかも、チャンと暮らしていけるというデモクラチックな国であってほしいと思いますけれどもね。何かまだとても距離がありますね。だから、じっくり時間をかけて日本の経済ばかりでなく、日本の生活自体の国際化というのは考えて行かないと」。現在の日本社会は、この時からどれほど歩みを進めたといえるでしょうか。昨今、人々の口の端に上るようになった「多様性」や「インクルージョン」といった言葉も、ともすれば空疎なスローガンとして消費されている気配なしとしません。はたして今を生きるわれわれは、社会のあるべき姿についてどれほど誠実に思索しているでしょうか。大平正芳の知的営為に接するにつけ、粛然と襟を正す心持を抱くのは、ひとり私だけではなかろうと存じます。
略歴
1986年奈良県生まれ。2010年中央大学法学部卒業。2016~2017年ジョージワシントン大学シグールアジア研究所客員研究員。2019年3月立教大学法学研究科博士課程後期課程単位取得退学。2019~2021年度は立教大学法学部助教。2021年9月立教大学法学研究科より博士(政治学)を取得。2022年度は立教大学兼任講師および立教大学アメリカ研究所特任研究員。2023年4月より現職。