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第39大平正芳記念賞受賞者

『中国共産党の歴史』(慶應義塾大学出版会、2021年)
高橋 伸夫

(慶應義塾大学法学部教授)
このたびは、名誉ある大平正芳記念賞特別賞をいただくことができ光栄に存じます。財団関係者の方々、選定委員会の先生方、本書の出版をご支援くださった方々に心より御礼申しあげます。
中国共産党は1949年に内戦に勝利するまで、いつ頓死したとしてもおかしくはありませんでした。1927年、1934年、1941年?このいずれかの年に、組織が消滅しても不思議はありませんでした。したがって、同党の百年は、なぜか生き延びた政治組織が全国的権力を握り、大躍進や文化大革命など極端な事業に手を染めた後、やがて世界最大の政党となってグローバルに影響力を行使するに至る物語です。
極端さこそが中国共産党の運動の特徴です。それは中国革命を世界革命の一部にしようとする、さらには前者に後者を先導させようとする指導者たちの願望のもとで、「上から」の要請と「下から」の熱狂が共鳴したために、革命の事業が「暴走」をはじめ、急進的な性格を帯びたからです。この特徴は、習近平の時代にも失われてはいないように思われます。
翻って、日本人の中国共産党をみる眼もまた極端であるようにみえます。日本人にとって、同党は1970年代に至るまでは希望の星であり、それ以降は悪魔となりました。しかし、この政党の成長過程をたどるなら、この組織が何度となく、その性格を大きく変貌させてきたことがわかります。1920年代、この「革命政党」は地主や富農や匪賊を自己の隊列に引き込んでいました。40年代にはアヘンの生産にも手を染めました。50年代にはソ連を社会主義のモデルとして崇拝していたのに、60年代にはそれと決裂しました。70年代には帝国主義の親玉であるアメリカと手を結びました。そして80年代以降は、資本主義を体制原理のなかに組み込みました。したがって、いまわれわれがみている中国共産党の姿が、この政治組織の最終形態であるとみなすことはできません。われわれにもまた思考の柔軟性が求められています。
本書が中国共産党を長い時間的展望において考える際の手がかりとなれば幸いです。

略歴
1987年、慶應義塾大学法学研究科博士課程修了。
1991年、京都外国語大学専任講師
1996年、慶應義塾大学法学部専任講師
2005年、同法学部教授(現在に至る)
2013-2021年、慶應義塾大学東アジア研究所所長
2014-2017年、中国成都市・西南交通大学政治学院海外院長
2019-2021年、アジア政経学会理事長

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