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第25回受賞作及び受賞者名

『カンボジア農村の貧困と格差拡大』(昭和堂 2008年)

矢倉 研二郎(やぐら・けんじろう)(阪南大学経済学部准教授)

<一年半のフィールドワークから>

このたびは,第25回大平正芳記念賞を賜り,たいへん光栄に存じます.財団およびその運営委員,選定委員の諸先生方,そして拙著の出版とそのもととなった研究を支えて下さったすべての方々に感謝申し上げます。
ポルポト時代とその後の長い内戦を経て、1990年代にようやく復興を開始したカンボジアですが,21世紀に入って以降,縫製業の発展等により高い経済成長を続けてきました。しかし農村部の人々の生活は依然として厳しく、また貧富の格差の拡大も懸念されています。そのようなカンボジアの農村家計の所得向上の制約と、経済格差拡大の原因を明らかにすることが拙著の課題です。
その課題に対して私がとった方法は,カンボジア農村の人々の経済の営みを詳細に描写すること,そして農村の人々の声を拾い上げるということでした.そしてそのために1年半近くかけた農村でのフィールドワークは不可欠であったと思います。
カンボジア農村経済の特徴は,制度的な制約が少なく経済活動が比較的自由に行われているということ,そして1980年代の政府による土地再分配もあって世帯間の経済格差はまだ比較的小さいということです.拙著が明らかにしようとしたのは,そうした状況下で何が人々の経済活動を制約しているのか,そして世帯間の経済格差がどのように生じていくのか,という点です.途上国経済の発展を妨げているものとして,政府による市場への介入を指摘する議論があります.たしかにそれが当てはまる国もあると思われますが,カンボジア農村経済の現実が示しているのは,医療や教育,インフラ,技術普及など公共サービスの供給面における政府の非力が,貧困を持続させ格差をもたらしている,ということであったといえます。
 拙著ではカンボジアの社会や経済の特質を十分にあぶり出すことができませんでした.今後は,カンボジアの特質は何かを探究しつつ,カンボジアの社会や経済の変化と,その過程で生じる諸問題を追いかけていきたいと考えています。

略歴
1971年福岡県生まれ。1995年東京農工大学農学部卒業、2000年京都大学大学院農学研究科修士課程修了。現地調査のためカンボジアに2年あまり滞在後,2005年京都大学大学院農学研究科博士後期課程修了。京都大学博士(農学)。名古屋大学大学院国際開発研究科特任講師(2006年)を経て、2007年4月より阪南大学経済学部で教鞭をとる。専攻は農業経済学、開発経済学で、カンボジアの農村経済や労働移動について研究を行っている。

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