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第25回受賞作及び受賞者名

『帝国日本の植民地法制―法域統合と帝国秩序』(名古屋大学出版会 2008年)

浅野 豊美(あさの・とよみ)(中京大学国際教養学部 教授)

<受賞は生涯永久に忘れ得ない出来事>

 世の中が世界金融危機と失業・経済再編の荒波にさらされるなか、初めての単著にて大平正芳記念賞を受賞させていただきましたこと、誠にありがとうございました。この受賞は、2009年の初夏に生起した環境や安全に関する大事件とともに、生涯永久に忘れ得ない出来事として刻まれていくことでしょう。お世話になりました財団関係者の皆様、渡辺昭夫先生、山影進先生をはじめとする審査員の先生方に深く感謝申し上げます。
 帝国史への関心は、近年イギリスでもアメリカでも流行しておりますが、それは「環太平洋」時代を迎えた日本においては、より切実な今日的課題となっています。なぜなら地域形成に日本が取り組もうとすれば、いわゆる「過去」の問題をいかに考えるのか、ある種の踏み絵を踏まなければならない状況が社会構造として存在しているからです。
 本書が扱った論点を地域主義概念に沿って整理すれば、①アジアにおける地域主義の歴史的起源は、「植民地版条約改正」とそれにともなった帝国法制整備の視点から相当前にさかのぼらせることができ、帝国としての近代日本は韓国との「地域主義」的な統合構想が破綻したところから生じたものであること、②帝国の展開と変質のなかで地域主義がある種の偽善となって現実を覆っていた構造は、領域のみならずヒトの秩序としての帝国の中に存在していた「法域」とそれへの所属という歴史的概念、各法域が帝国を飛び越えて外部の周辺地域や英米中心の国際関係一般と重層的に連結されていた構造、および、満洲国誕生や大東亜共栄圏主張に際しての属人的権利・義務についての再編構造の解明によって浮かび上がせることができること、③第二次大戦後の帝国解体がアジアの経済発展のいかなる地下水脈となっていたのかという問題は、旧植民地に残された在外日本(人)資産処分と賠償問題の展開を契機に、帝国解体を地域的再編への契機としようとしたアメリカの意図からたどることができること、以上の三つにまとめることができるでしょう。こうした「熱い」テーマを、極めてミクロな実証的法制分析によって「冷めて」論じたのが本書です。受賞によってこの本が、経済・政治・学術活動の最前線にいらっしゃる方々に、現在進行中の地域的変容に対する歴史的感性を、国民史ならぬ地域史的イマジネーションとともに、少しでも喚起できますようにと祈ってやみません。

 略歴
1983年4月東京大学入学1988年同大学院総合文化研究科入学国際関係論専攻
1994年2月ハーバード大学ライシャワー研究所フェロー(~1995年2月)
1998年3月東大大学院総合文化研究科博士課程満了(2009年2月学位取得)
1995年7月財団法人交流協会 日台交流センター嘱託(~1996年6月)
1998年4月早稲田大学アジア太平洋研究センター助手(~2000年3月)
2000年4月中京大学教養部助教授を経て、同大学国際教養学部現職。
 『国境を越える歴史認識―日中対話の試み』 東京大学出版会 (2006/5共著)
『岩波講座「帝国」日本の学知 第一巻 帝国編成の系譜』 岩波書店 (2006/2共著)
『植民地帝国日本の法的展開』 信山社 (2004/7共編著) 

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