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第23回 研究テーマ及び受賞者

『東アジアにおける日本人コミュニティの変容に関する研究-台湾・上海・香港を事例として』

金戸 幸子(かねと・さちこ)(京都大学大学院文学研究科グローバルCOE研究員)
 
<日本と東アジアの関係性の再考に向けて>

  このたび私が申請いたしました研究テーマ「東アジアにおける日本人コミュニティの変容に関する研究―台湾・上海・香港を事例として―」を第23回環太平洋学術研究助成費の対象にご選定いただき、たいへん光栄に存じております。今回の受賞に心より大きな驚きと喜びを感じると同時に、萌芽的な段階にある小さな研究をさらに一歩を進める勇気と自信を与えて下さった大平正芳記念財団の運営・選定委員会の先生方、職員の皆様と関係者の皆様に厚く感謝申し上げる次第です。
  故大平正芳首相が「環太平洋連帯構想」を提唱されてから四半世紀余りになります。その後、冷戦構造の崩壊、民主化や高度経済成長に代表されるように、アジア太平洋諸国・地域をめぐる政治経済環境は劇的に変化し、これらの地域に関心を持つ人々や研究者の数は飛躍的に増加しました。他方で、この20年弱の間に、東アジアは大きな社会変化を遂げ、こうしたなかで、これらの地域から日本に来る外国人だけでなく、東アジア都市部を中心に日本からの人の移動も増え続けております。外務省の統計によると、アジア地域の在留日本人数は、2006年には外務省が同統計をとり始めて以来、絶対数では初めて北米地域を追い抜き首位に躍り出るに至りました。とりわけ2000年代に入り、現地採用就労や留学、あるいは国際結婚など、日系企業の派遣駐在員やその家族に含まれるカテゴリー以外の身分や立場で、アジア各地で生活する日本人が増え続けております。このことは、日本と現地社会との関わりがこれまで以上に多元的なものになると同時に、新たな段階に入っていることを示唆しております。
  今回の私の研究の第一の目的は、こうした展開のなかで変容しつつある、台湾、上海、香港を中心とする東アジアの日本人コミュニティを事例に、とりわけ就労などをめぐる現代日本の社会状況の変化と、東アジアのマクロな社会変動との相互連関を微細な事象から描き出していくことにより、日本とこれらの地域との社会的な関係性が人的移動の面から徐々に変容してきていることを明らかにしていこうとするものです。
  現代社会においては、行為体として、国家以外の個人や集団の果たす役割の国民国家の変容に与える影響がますます大きくなってきております。今回の環太平洋学術研究助成費受賞を励みに、これまでとは異なる視点やアプローチから、近未来のアジア太平洋地域の発展と連帯に少しでも貢献できるよう、一層気を引き締め、ご期待に応えられるよう今後とも精進して参りたいと存じます。
 
略歴
慶應義塾大学法学部政治学科卒業、2004 年東京大学大学院総合文化研究科国際社会科学専攻修士課程修了、2008 年同博士課程単位取得。専門社会調査士。2006 年~2007 年台湾・中央研究院民族学研究所訪問研究員、2007年~2008 年英国・ブリストル大学東アジア研究所協力研究員、2008 年より東京外国語大学多言語・多文化教育研究センターフェロー、2009 年より京都大学グローバルOCE プログラム「親密圏と公共圏の再編をめざすアジア拠点」研究員。専門は国際社会学、比較社会学、台湾と沖縄を中心とする東アジア研究。近著に「現代台湾における多文化社会の展開と〈新移民〉問題」(日中社会学叢書第2 巻『チャイニーズネスとトランスナショナル・アイデンティティ』共著、明石書店、2009 年)、ほか多数の論文がある。

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